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エッセイ

ワイワイたすけ合い 「5.ろっくの地の一れつきょうだい 」 その1

5.ろっくの地※の一れつきょうだい
 
 ストップ・ザ・覚醒剤!

 
 
覚醒剤と妊産婦さんの話

 数年前、ある病院の産婦人科に、警察から調査協力の依頼があったそうです。「Aさんという人が、1ヵ月くらい前にそちらでお産されましたか?…。実は覚醒剤使用で捕らえた女性が、『自分はそちらの病院でお産したばかり』と言うので確認をしたいのです」とのことだったそうです。

 その時、その病院の助産師さんは「あぁ、そうだったのか…」と愕然としたそうです。以下はその助産師さんの話です。

 そのお産をした人には、入院中不思議な行動がありました。その人は、入院中「絶対外出したがる人」だったのです。普通、産婦さんは陣痛がきて入院することが多いのですが、その人は陣痛がくる前に「破水」といって、赤ちゃんの入っている卵膜という袋に小さな穴があいて、そこからチョロチョロと羊水が流れ続ける状態で入院して来られました。そういう場合は、卵膜の穴から子宮にばい菌が入らないよう、清潔にして、抗生物質を飲んだり点滴したりして、発熱がないか、羊水が濁ってこないか、赤ちゃんは元気か、検査しながら、自然な陣痛がくるのを一日、二日待つのです。羊水が出続けることもあり、じっとしていたいという人が多い中、そのわずか一日、二日の間にも、「ちょっと用事があるので、ぜひ家に帰って来たい」と言われるのです。

「今は赤ちゃんの心音にも気をつけなくてはいけない大事な時だから、ご家族に用事を頼んだら?」とか「無事に生まれてからにしたら?」と言っても、「どうしても自分でしたい用事がある」と内容はおっしゃらずに、「どうしても! どうしても!」と、とうとう泣きながら病院の外に出て行かれ、その助産師さんは心配で病院の外までその人に付いて行き、実家のお母さんと二人で、病院に戻るよう説得したのだそうです。

 そうこうしているうちに、本格的な陣痛がきて、外出どころではなくなり、無事お産になったというエピソードがあったので、助産師さんは「どうしてあんなに外出したかったのだろう」と思っていたそうです。

 警察からの知らせに、その助産師さんは「あの外出は、覚醒剤を使いに行きたかったのかも。だからあんなに必死で家に帰りたかったのか、可哀想に…」と、悲しい思いをされたそうです。なぜなら、普通、女の人は妊娠すると、せめて妊娠期間中だけでもお腹の赤ちゃんのことを案じて、お酒や煙草を控えたり、栄養バランスを考えて過ごそうとするものなのです。

 ホステスさんのようなお酒を飲む機会の多い職業の人でも、自分用に薄めたお酒や、お酒に似せたお茶を用意したりして、赤ちゃんのことを気遣ったりされる話をよく聞きます。Aさんも、ましてや覚醒剤。「どんなにやめたかっただろう、それでもやめられなかった依存症の怖さ、その辛さを気づいてあげられず、すまなかった」と思ったそうです。それと同時に「こんな普通の田舎町の普通の主婦で、しかも妊婦さんにまで、覚醒剤の魔の手が伸びているなんて」と思うとよけいに悲しく、「現場で気づいた者こそ、警鐘(けいしょう)をならさなくては!」と思ったそうです。「彼女の必死で悲しそうな表情を思い出すたび、若い女性達に注意してあげなくては!」とも言っていました。

 

「夜回り先生」の話

 若者をドラッグ(麻薬や覚醒剤類のこと)から必死に守ろうとしている人に、元夜間高校の先生の水谷修さんがいます。繁華街の深夜パトロールを行い、若者一人ひとりに声をかけることから、「夜回り先生」の名で知られ、著作も多数で講演活動もさかんにされているので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。水谷氏によると、10年程前から日本の「第5次薬物汚染期」というものが始まったそうです。日本には年間40トンもの覚醒剤が密輸されてきていると推定され、1999年に総理府(現内閣府)が行った「薬物乱用に関する世論調査」では、薬物乱用者を身近で見聞きしたことのある15歳~19歳が18.6パーセントもいる、と報告されているそうです。麻薬の密造には、タイ・ラオス・ミャンマーのゴールデン・トライアングル地域が知られていますが、他にも麻薬や覚醒剤の密造場所があり、そのことは世界の貧富の格差の問題とも関連していると思います。薬物を密造する人がいて、密輸し売りさばく元締めや小売人となる人がいる以上、手に入れてその依存症になってしまう人が、身近にいても不思議ではありません。

 水谷氏は講演で、「ドラッグは、知らない怖い大人が強引に誘うというより、顔見知りの若者から勧められることが多い」「ドラッグを、もし先輩や友人に勧められたら、話をそらして、まずは逃げなさい!」と注意します。そして依存症の人を「自分の愛の力で治そうとせずに、専門医療機関や更生施設、警察の手に委(ゆだ)ねるように」と訴えます。先生もかつて自分の愛の力で依存症の人を助けようとして、何人も大切な若者を亡くしてしまったからです。その言葉は、最前線でドラッグと向きあってきた闘士の言葉として、真実を衝(つ)いていると思います。

 もしもあなたの周りで、ドラッグやシンナー、オーバードーズ(睡眠薬や風邪薬を一度に大量に服薬すること)をしている人を見聞きすることがありましたら、まずは、あなたが水谷氏の本をぜひ読んでみて下さい。そして、真の助けがどこにあるのか真剣に考えてみて下さい。

【参考文献】水谷修著『薬物乱用ーいま、何を、どう伝えるか』大修館書店 2001  
      『夜回り先生の卒業証書 冬来たりなば春遠からじ』日本評論社 2001

 

 

※ろっくの地
「ろっく」は大和地方の古い言葉で、「ろっくの地」「ろくぢ」とは平らな土地を意味します。教祖は、険しい山を切りひらき、荒野に道をつけて、世界が平らで安らかになるよう、万人たすかるこの教えを世界にくまなく弘めて下さっています。

(草場直子 2007年3月発行『ウィズ・ユゥ』vol.18 より)

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