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エッセイ

ワイワイたすけ合い 「4.親が子となり子が親となり」 その2

4.親が子となり子が親となり
 
認知症泣き笑い

 
認知症との付き合い方

 まず、コミュニケーションをとる時の工夫ですが、母の言動を見ていると、「自分の置かれている時間・空間・対象の把握が困難なんだなぁ」とつくづく思います。

 人の脳をコンピュータに喩えるならば、朝目覚めた時、つまりコンピュータが起動した時に、普通は昨日の眠りに就いた時の記憶に上手く繋がります。ここは自分の家の布団の中で、今日は月曜日の朝で、隣にいるのは家族の誰それだというように。ところが認知症の人の場合、その状況認知に障害が生じているので、ここが若い頃過ごした家だったり、今が朝なのか季節がいつなのか、隣にいるのが、5分前に話していた人と同じ人なのか、混乱するようです。おまけに接触の悪い画面のように、付いたり消えたりモザイクが入ったりするようなのです。

 時間認知がおかしい時は、例えば真夜中でも「お腹が空いた」と言う時は食事を出すようにしています。「真夜中だから食べない方が良い」とか押し問答する方が互いのストレスになるからです。若い頃の自分に帰っている時は、昔話から今に至る話をあれやこれやします。

 空間認知が混乱して、昔住んでいた家に帰るとか言う時は、真夜中でも身支度をして家の周りの散策に付き合います。家の中で外出させまいと理屈で説明するより、実際の外を体験させた方が空間認知の修正に効果があるようです。

 対象把握が混乱して、「あなたどなた?」と言われると最初はすごく悲しいし、娘だと言っても、信じてもらえないと尚悲しく感じますが、あっさり娘だと言っても、信じてもらえない時は、親切な他人を演じてみても良いかなと、この頃開き直りつつあります。なぜなら私が着替えたり、家事をし始めただけでもこの現象は起こるのですから。

 話の内容も、中枢部分が何を言わんとしているかが分かれば、言葉尻のおかしさは無視するとか、言葉より表情・態度を重視するとか、一寸したコツがあります。小さな子どもの気持ちを汲むのに通じるものがあるかもしれません。脳コンピュータは不具合でも、魂の優しさとか気質といったものは昔のままのような気がします。

 

認知症介護の心得

 状況認知に不具合を生じている他に、生活一般が下手になっているので、介護する者には心得というか覚悟がいるように思います。まずは、排泄関係の失敗が多くなります。排泄は、出なければたいへんな問題です。排泄関連の事件後、後始末に心を倒しそうになる時、「出るから有り難い、出なければもっと大変」と思うようにしています。それとウォシュレット導入によって便座が温かいだけでも、手間が十分の一くらいになったのでお薦めです。

 それから日常生活上、善意からスタートした様々な事件に出くわします。例えば、炊飯器とぬか床を間違えて、胡瓜を炊き込んでしまったり、洗濯後の方が洗濯前より汚れていたりとか、裁縫糸が全部こんがらがっていたりとか…。発見時卒倒しそうになる時も、「けががなくて有り難い」「手先を使うことは頭の運動になる。それに善意でしてくれたんだから」と自分に言い聞かせています。もっと良く言えば、人生に、スリルとおもしろみと、知恵を絞らざるを得ないことが増えたとも言えるでしょう。

 

介護うつにならないための工夫

 病気の介護をしている方が、うつになってしまうことは、ぜひ避けねばなりません。私は次のことを心懸けています。

 一におさづけ。毎朝私と母は互いにおさづけをお取り次ぎしあいます。母は「事故・けが・火傷をしないよう、淋しさにとらわれないよう、魂が親神様に近づけるよう」私は「(介護うつにならないように)、節から折れずに芽を吹けるように、善き働きができるよう」お願いしています。

 二に眠る。20~30歳代の頃は、しなければいけないことがあると、コーヒーを沢山飲んだりして睡眠を削っていましたが、今は大切な用事だけして、隙あらば眠るようにしています。たとえそれで人生の何分の一かが睡眠だった、という結果になっても、眠い時には眠っておいた方が、起きている時の人生が「人に優しく前向きな考えができる人生」になるように思うのです。ストレスの強い状況の人ほど、眠るべきだと思います。眠れない時、私はみかぐらうたを歌うか、起きて用事をします。

 三に、認知症を恥じない・隠さない・語って・できれば笑い飛ばす…。まだまだですが、その域に達したいと思っています。

 四に、自分のことも大事にする。相手のことばかりを優先していては身が持たないので、時には自分にご褒美をあげたり、相手のことと自分のことを交互にするようにしています。

 

親が子となり子が親となり

 母は私を大切に育ててくれました。その恩を返すためにも、私は一生懸命、母に尽くしていきたいと思います。認知症へのおたすけは、頭や心を越えて、魂へのおたすけだとも思います。それに、母が認知症のお手引きを頂いてくれた訳は、私にもっと教会長として働くようにというお導きかもしれません。そこで、私はこのたび看護師長を退職し、今は、外来助産師としてつとめながら、精一杯「おや孝行」をしたいと思っています。

 

(草場直子 2007年8月発行『ウィズ・ユゥ』vol.19 より)

ワイワイたすけ合い「5.ろっくの地の一れつきょうだいへ」つづく

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