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エッセイ

ワイワイたすけ合い 「4.親が子となり子が親となり」 その1

4.親が子となり子が親となり
 
 認知症泣き笑い

  
認知症発症

  私の大切な母が、昨年3月より、認知症(注①)になりました。父が8年前、がんで「あと数ヵ月の命」と言われた時、父との突然の別離の予告に、まるで心が石になったように悲しく思いました。このたび、かつて賢くて優しかった母が、娘の私を娘だと徐々に分からなくなっていくのに接するのも、母との緩慢な別れの形のようで、しみじみと悲しいものでした。今は認知症の母との付き合い方にもだいぶ慣れてきて、笑うこともできるようになりました。そこでもしも、皆さんの身内の方が認知症になられた時の一助になればと、母と私の「認知症泣き笑い」の日々を、話の台としてここに記します。母には申し訳ない気持ちがするのですが、私は、認知症になることを、恥ずかしいとは決して思いたくないので、その気持ちを母もきっと分かってくれると信じて記すことにします。

 母の認知症に私が気づいたのは、昨年3月の夜、私の「今日は遅くなるよ」の電話に「早く帰って来て…。玄関に黒い大きな猫がいて『シッ! シッ!』って言っても追っ払えないんだよ」と情けない声で答えたのが始まりでした。その時は「玄関には鍵が掛かっているんだから猫なんか入って来ないよ。研修が終わり次第、帰るから」と言って、帰ってあげることができませんでした。母の幻覚はその日の猫が始まりでした。私見ですが、認知症は淋しい思いをした人がなるような気がします。それに母は猫がこの世で一番苦手だったので、今思えば、あの時すぐ帰ってあげればよかったと思います。

 その後、幻(まぼろし)は、玄関の自転車の所に遊びに来る2人の男の子、玄関で裸で背中を拭いているお婆さん、顔にけがをしたスカーフのおばさんの三人組、うちでお産をする産婦さんとその医師や助産師のグループ、戦争でけがをした兵隊さんや子ども達、天理教の長老とその信者のグループと増えていき、一番多い時は20~30人の「幻さん」(これは私が命名しました)で、わが小さき分教会は、野戦病院のようになってしまったかのようでした。その話を、母から毎晩聞かされ、それらの「幻さん」は、私が「来てもよい」と言ったから、来ているので、早く追い出すようにと責められました。

 訳の分からない気味の悪い話と、身に覚えのないどうしようもないことで責められる苦痛は、私の方が正気を失いそうでした。「霊か妖怪がわが教会に取り憑いたのか? 霊視してもらおうか?」とも思いました。しかし、『おふでさき』に、
このよふにかまいつきものばけものも
かならすあるとさらにをもうな 14号 16
と書いてあることと、「ここは(親神様のお鎮まり下さる)教会だから(絶対憑き物などあり得ない)」という思いにしがみついて、私は正気を保ちました。

注①認知症 成人後期に病的な慢性の知能低下が起きる状態。いわゆる呆け・物忘れ・徘徊などの行動を起こす。主な原因は脳梗塞など脳血管系の病気とアルツハイマー病。もと痴呆症と呼んだ。

 

認知症ショックからの反撃

 最初のうちは、普段の仕事と、家事ができなくなっていく母の代わりに家事をしながら、幻話に正気を保っているのが精一杯だった私でしたが、市立図書館で認知症の本を数冊借りて、母に隠れて読むところから、認知症への私の反撃が始まりました。

 本を読んで母が認知症であることを確信した私は、母に神経内科を受診してもらうことにしました。「自分は正常だ」と言い切る母は、受診を断固拒否しましたが、「私を安心させるために一回だけ付き合って」と説得して、やっと受診してくれました。専門医に「パーキンソン氏病(注②)と脳梗塞(注③)が原因の認知症であろう」と告げられ、脳の血流を良くするためにバイアスピリンという薬を処方された時、私は初めて味方を得た思いと、これ以上の悪化を防ぐ義務を果たせた思いで、ほっとしました。

 他の病気と同様、認知症も早期発見、早期治療が大切だということです。「おかしいな」と思ったら、ぜひ早めに受診しましょう! 母は医師の診断後、薬を飲むようになってから幻が少なくなり、何より「自分が病気らしい」と、少しは認めてくれるようになり、おさづけを受けることと、「自分に見えているものが他の人には見えないようだ」と感じるようになってくれました。その後の検査の結果、認知症の原因は、10年前の交通事故の頭のけがと加齢によるものではないかと分かり、治療内容もそれにあったものへ変更され、適切な対応を有り難く思いました。また、専門医に脳の画像を見てもらい説明してもらうことにより、家族として患者に対する理解と同情が生まれる効果もあると思いました。

注②パーキンソン病 脳内のドーパミンという神経伝達物質が不足し、脳からの指令が筋肉にうまく伝わらなくなり、運動の障害を生じる疾患。片側の手足がふるえる、動きが遅くぎこちなくなる、手足の筋肉が硬くなるなどの症状がある。

注③脳梗塞 脳血栓または脳塞栓の結果、脳血管の一部が閉塞し、その支配域の脳実質が壊死・軟化に陥る疾患。

 

(草場直子 2007年8月発行『ウィズ・ユゥ』vol.19 より)

 

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